日本刀販売・刀剣専門店【十拳-TOKKA-】

Japanese Antique SAMURAI Sword and Fittings

刀装具【鐔・縁頭・目貫・小柄】 真鍮地狗児戯鮑貝図鐔 - Shinchu ji Inukoro Awabi zu -

真鍮地狗児戯鮑貝図鍔 日本刀専門店【十拳-TOKKA-】刀装小道具・刀装金工・鐔・縁頭・目貫・小柄

真鍮しんちゅう地鉄じがね丸彫まるぼり透かしに仕立てた、なんとも愛らしいつばである。あわびからひもを結び作ったおもちゃで遊んでいるぶちの子犬。黒いぶち赤銅しゃくどうぎ出して、子犬の目と首輪、貝のふちほどこされた金の色絵象嵌いろえぞうがんがひときわ輝きを放つ。アワビの殻も等角螺旋とうかくらせんえがき、鮑の穴にくくり付けられたひもはくるくると螺旋らせんを描く。左後足ひだりうしろあしをちぢめて、右後足みぎうしろあしでぐっと紐をみつけ、紐にガジガジみついている子犬の姿は、なんとも一生懸命で、見ているこちらの微笑ほほえみを誘う。
仔犬こいぬが遊んでいるのは鮑の貝殻である。
平安時代に書かれた日本最古の医術書と云われている医心方いしんぽう。鮑の説明の最後に下記の記述がある。
石决明 耳秦皇之世不死之薬覔東海者豈謂於斯歟 和名 阿波比あわび
しん始皇帝しこうていの時代、東海にて不死の薬を探す者がいたが、石决明せつけつめいがこれであったと聞いたことがある。和名 阿波比あわび(意訳)
医心方いしんぽうだけではなく、本草和名ほんぞうわみょうにも不死の薬21種に石決明(附石生海中)かいちゅうでいしについてしょうず一文いちぶんを見ることができ、鮑が不老長寿の妙薬みょうやくとされていたことがわかる。鮑の内側にある真珠層しんじゅそうは薄く板状いたじょうがれ、螺鈿細工らでんざいくの材料となり、まれに取れる鮑真珠あわびしんじゅ鮑玉あわびだま鮑白珠あわびしらたまとして珍重ちんちょうされた。
祝い事、贈答品に添えられる熨斗のしは、元来がんらい鮑を平たく伸ばしてしたものである。伊勢神宮には現在でもこの熨斗鮑のしあわびが毎年奉納ほうのうされている。祝いの席、儀式ぎしきなどに欠かせない鮑は、戦国時代になると、いくさまえに気持ちを鼓舞こぶし、生きながらえることを願う縁起えんぎものとして、三献さんこん(式三献)しきさんごん(酒杯を加えた四方膳しほうぜんとも)が行われるようになる。総大将そうだいしょう打鮑うちあわび勝栗かちぐり昆布こんぶ三品さんぴんを口にし、酒杯しゅはいを三度口にするのである。敵を討ち伸ばし、勝って、喜ぶのである。また、戦場いくさばでは保存食として重宝ちょうほうしたという。
犬は多産たさんで出産も軽いことから、安産と子ども無病息災むびょうそくさいを、犬の危険を察知する能力から、盗難、火災除け。犬の遠吠えが魔をはらうと魔除けとされる。
奈良にある光明皇后こうみょうこうごうゆかりの法華寺ほっけじにはお守り犬と呼ばれる泥製どろせい手捻てびねりで作られた可愛らしい犬のお守りがある。天平てんぴょうの時代一千座いっせんざ護摩供養ごまくようを行い、護摩堂ごまどうはい清浄せいじょうつちに混ぜて皇后御手おんてずから作られたとされる。衆生しゅじょう病苦ぼうく、厄除け、安産を願い結縁けちえんの者にさずけられたのが始まりといわれている。
平安時代、れやわざわいをはらうために置かれた宮中きゅうちゅう狛犬こまいぬが始まりだとも云われている犬筥いぬばこ。お守り犬がもととも云われているが、犬筥は雌雄一対しゆういっつい阿吽あうんの姿で産室うぶやに置かれ、魔除けや安産のお守りとされてきた。
犬の「安産・魔除け」鮑の「長寿・縁を伸ばす」鮑に付けられたには「物事が長く続くこと、また続いているもの。これが転じてたま(魂)たましいをつなぐもの、命、生命、玉の緒の意」とある。子孫繁栄しそんはんえいを願う文様もんようでもあろう本作。
江戸中期から後期に活躍した円山応挙まるやまおうきょらの描いた可愛らしい犬ころの絵。そんな愛らしさが鐔全体からただよ逸品いっぴんである。

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